昔から、日本は宗教色の薄い国だと思っていました。
子供の頃、テレビの特集といえば悲惨な戦争の記録映像ばかりで、そこには「神も仏もない」過酷な現実が映し出されていました。学校の授業でも、宗教について深く語られることはほとんどありません。憲法で信教の自由は認められていますが、その反面、ニュースで目にするのは政治色の強い団体や、社会問題を引き起こす不透明な宗教法人の姿ばかりのように思えていました。
社寺は日本人の信心の拠点
ところが、案内士の勉強を始めると、意外な事実に驚かされます。
とりわけ驚くべきは、日本全土に存在する神社の数です。その数、なんと約88,000社。これは、全国に約57,000店舗あるコンビニエンスストアの数を遥かに凌いでいます。神社という形式の拠点は、文字通り「そこらじゅう」にあるのです。
また、仏教の拠点である「寺院」も全国に約77,000ヶ所あります。こちらも歯科医院の約69,000軒より多いのです。ホテルの数が約5万軒、弁護士が約4万7千人であることを考えると、いかに多くの宗教拠点が日本人の生活圏に溶け込んでいるかが分かります。
神道については、過度な勧誘や強要もなく、「知りたい人だけが知ればよい」という、どこか超然とした雰囲気が漂っています。私たち日本人は、強いこだわりを持たずに、これらを日常の風景として織り込んできました。しかしそれは、世界にある教条主義的な宗教と比べれば、むしろ生活に密着した非常に身近な存在であると言えるのかもしれません。
案内士の数と現状
国家試験を突破した「全国通訳案内士」の数は、2025年度の合格者を含めて約28,000人だそうです。
仮に全員がフル稼働したとしても、2025年の訪日外客の予測数である3,900万人を考慮すると、案内士一人につき年間で約1,390人の観光客を担当する計算になります。
私が住む神奈川県だけでも800人を超えるライセンス保持者がいますが、アクティブに活動しているのはその半分以下でしょう。神奈川県を訪れる外国人は年間約350万人にのぼるため、一人あたりの負担は極めて大きいものになります(その多くが東京からの日帰り客であるという実情はありますが)。

案内士の数は、僧侶(約34万人)や医師(約35万人)と比べると10分の1以下です。こうした人手不足もあってか、現在は法改正により、資格がなくても有償でガイドを行うことが認められています。しかし、案内士試験で問われる地理や歴史の深さを知る身としては、無資格のガイドによる説明では、日本の本質的な魅力を伝えるには中身が薄くなってしまうのではないか、と危惧してしまいます。
AI時代に生き残る案内士とは
今後はAIの発達により、ガイドの需要は一時的に低迷するかもしれません。スマホのアプリを起動し、イヤホンで母国語の解説を聞きながら観光するスタイルはさらに増えるでしょう。
そうなれば、人間にしか出せない「ユニークな持ち味」を持つ人材だけが生き残る時代になります。しかし、有名人の声を模したAI案内士がどれほど精巧に案内したとしても、訪日客が求めているのは「模倣」ではないはずです。情報量でAIに敵わないとしても、誠実で嘘のない、血の通った「ロハス」な案内士こそが、最終的に好まれるのではないでしょうか。
観光庁が発行している通訳案内士のガイドブック(テキスト)に、心に響く言葉があります。
「旅行の究極の魅力は人との出会い」と言われる。全国通訳案内士はその意味で「民間外交官」と称される。
——観光庁 国際観光部「通訳ガイドテキスト」より
出会いこそが旅の価値であるならば、それを演出できるのはやはり「人」でしかありません。
……とはいえ、まずは8月の国家試験に合格しなければ、すべては絵に描いた餅です。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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